表面特性として主な特性を紹介します。この特性は肌触りや見た目に大きく影響を与える項目です。
表面粗さ
影響する因子は主に繊維の形態、生地の構造です。スパン糸よりもフィラメント糸の方が滑らかですし、平織よりも朱子織の方が糸の屈曲が少なく、滑らかです。一つの指標として接触子を当てて、生地の上を移動させて凹凸を測定する方法があります。簡単に測定できますが、この方法は注意が必要です。測定する場所や方向などの違いで全く異なった結果が出てしまうのです。接触子に何を使うかでもヘコ部に接触子が落ちるかどうかが変わってきてしまいます。数字と感覚が異なって出てくる場合もあるので、注意して試験する必要があります。また金属の表面荒さを測定するのと異なり、Ra、Rzなどのレンジにも注意しなければなりません。生地にもよりますが、そもそも凹凸がありすぎて測定できない可能性がありますので、よく検討しましょう。
近年は光学的に凹凸を測定することも容易になってきました。凹凸を3次元的に拾って解析する手法の方が的確かもしれません。
光沢
光沢は光の反射によって生じます。そもそも光は、物に当たると一部は反射し、残りは物に入り込みます。反射する場合は表面が滑らかであればそのまま反射します。これを正反射といいます。また凹凸があると様々な方向に反射することがあります。これを乱反射といいます。正反射が多いほど我々の目には鏡のような強い光沢を感じます。
光沢度の測定として光度系を用いる測定方法があります。入射光と反射光の強さを測定する方法です。フラットな板であれば測定と解析は容易ですが、生地の場合は困ったもので、測定する場所が少しずれただけで、全く異なった数値が出てきてしまいます。測定場所や方法を厳密に決めたり、測定回数を増やして偏りをなくしたりする工夫が必要です。
摩擦
繊維にとって欠かせない特性です。なぜなら摩擦がなければスパン糸が糸にならないからです。また、生地は糸同士が絡み合っているため、摩擦力の果たす役割は大きいと言えます。
さて、ここで理系の方は高校生の物理のおさらいです。摩擦力をF、摩擦面に働く垂直抗力をP、摩擦係数μとすると
F=μ×P
で表されます。摩擦係数μは材料や、条件、垂直抗力によって変化します。μが大きくなるときの例を挙げます。「柔らかい」、「濡れている」、「帯電している」とき、μが大きくなります。また、生地同士間なのか、生地と人体間なのかでも異なることは何となくお分かりいただけると思います。どんな材料でどんな条件でどんな力が加わりながら発生する摩擦力なのか、よく検討して特性を見ていく必要があります。
帯電
生地の表面を摩擦することによって静電気が発生します。電気抵抗が小さければ消え、大きければ帯電することになります。布の電気抵抗は素材以外にも、水分や温度、付着物、生地の組み合わせで大きく変化します。特に水分は表面の電気抵抗を下げ、静電気を逃すため、帯電性に大きく影響します。水分が多い=湿度が高い状態ではあまり帯電しません。素材で言えば天然繊維が親水性であるため(繊維fiber項参照)、帯電しにくく、合成繊維は疎水性のため、帯電しやすい傾向にあります。
防汚
繊維製品に関わる汚れはたくさんあります。
外部から: 埃、食べ物、化粧品、排気ガス、臭気など
内部から: 皮脂、皮膚の老廃物、汗、血液など
また、分類としては、有機質よごれと無機質よごれ、油性よごれと水性よごれ、などが挙げられます。
顕微鏡で見ると汚れは糸同士の間隙や糸の撚りの間隙に機械的にはまり込んだものがあります。こうした汚れに関しては表面が平滑になるよう、糸表面が滑らかなフィラメントであって、凹凸がない平滑な組織の生地が汚れにくいと言えます。
また、ポリエステルなど疎水性の繊維は油汚れがつきやすく水溶性の汚れはつきにくいと言えます。対して綿など親水性の繊維は水溶性の汚れがつきやすいが、油汚れはつきにくいと言えます。(疎水性:水と不仲、親水性:水と仲良し)
静電気で汚れを引き寄せるため、導電性が高い水分を引き寄せない疎水性の繊維は汚れが着きやすいと言えます。
いずれにせよすべての汚れをつきにくくすることは難しいです。どんなシーンでどんな汚れを防ぎたいかを考えて素材を選択して使用できる知識が必要となります。
それでも各種汚れを防ぎたいということであれば、安定した原子で他物質と反応しにくいシリコンをベターっと平滑に塗れば良いかもしれませんね。
ピリング・スナッグ
ピリング:毛羽
スナッグ:毛玉
です。摩擦によって毛羽立ち、やがて絡み合って毛玉になるという現象です。間違いなく外観を損なうものなので避けたいものです。一般的にどんな時に発生しやすいのか比較してみます。
繊維長が短い>長い
撚りが甘い>多い
織、編密度が小さい>大きい
スパン糸>フィラメント糸
編物>織物
ここでピリングに関して少し面白い話があります。実はピリングが出来ても繊維が弱いと知らず知らずのうちに脱落していくのです。できても落とすという対策もあるんですね。逆にいうと引っ張り強さに強い繊維は毛玉ができたらなかなか取れず、ピリングが増える一方です。もし仮に羊毛とポリエステルを混ぜた糸でニットを作ったら、羊毛が絡み合いやすくピリングができるが、強度が高いポリエステルが踏ん張ってなかなか脱落しない大量毛玉発生生地が出来上がるでしょう。