糸は繊維を平行状態に集合させ、繊維同士が分離しないようにしたものです。糸を製造することを紡糸(ぼうし)といいます。余談ですが、日本に数多く存在する会社でこの「紡、(ぼう、bo)」とつく会社は、現在もしくは過去に紡糸をおこなっていた(いる)会社であることがほとんどです。調べてみると面白いかもしれません。

スパン糸の製造工程

短繊維(ステープル)を平行にし、引き伸ばしながら撚りを加えます。綿と羊毛もしくは化学繊維で少し名称と工程が異なりますが、やっていることは基本的に変わりません。綿を例に工程を説明します。

混打

綿は植物です。摘み取られた綿を圧縮して輸送します。そして綿を混打綿機という機械を使って解きほぐし、原綿に付着している種子、葉や砂などのゴミを取り除きます。そして最後にシート状の形(ラップと呼ばれる)にします。

カーディング(梳綿:そめん)

カード(梳綿)機を用います。針が無数についたドラムを回転させ、シート状のラップを投入します。すると繊維が分かれて平行に引き揃えられ、ゴミや短繊維を取り除かれます。長い繊維がある程度平行状態に揃えられ、収束することで、紐状のカードスライバーになります。スライバは綿の繊維が平行に並んでいるだけのもので、フワフワしています。引っ張るとすぐにちぎれます。

コーミング(精梳綿)

こちらの工程は省略されることもあります。より均一で糸ムラや毛羽が少ない、光沢がある糸を作る場合に必要です。くしで髪をすくように針で繊維をくしけずって平行に伸ばします。カードスライバーをくしけずり、混打綿・カード工程では十分に除去できなかった短繊維やネップと呼ばれる繊維の小さな塊、雑物を取り除き、繊維を平行に引き揃えることでコーマスライバーになります。

練条(れんじょう)

8~10本のスライバーを合わせて供給し引き伸ばして繊維を平行にします。1本あたりの太さにばらつきがあっても、複数本合わせて引き伸ばせば、太さが平均化されていきます。こうして均一な太さのスライバができます。スライバ同士を合わせることをダブリング、引き延ばすことをドラフトと言いこれを繰り返し、太さむらをなくします。

粗紡(そぼう)

粗紡機を用いてスライバーを引き伸ばして細くし、軽く撚りをかけて粗糸にします。撚りをかけると中心にトルクがかかり、摩擦力が働くのでちぎれなくなります。ここでようやく糸状になります。ボビンに巻き取り、粗糸となります。

精紡(せいぼう)

粗糸をさらに引き伸ばし、所定の太さにし、撚りをかけてより強度を持たせた糸を作ります。糸はボビンに巻き取られて完成です。リング精紡機、オープンエンド精紡機が用いられますが、およそ100年前から原理は変わりなく、現在も使われています。

巻返し

ボビンに巻かれた糸を用途に応じチーズやコーンの形態に巻き返します。精紡で作られた糸を用途に応じて、色々な仕上げや加工を施します。糸は円筒状のチーズや円錐状のコーンという状態に捲き上げます。

フィラメント糸の製造工程

基本的に口金とよばれるシャワーヘッドのような金属から押し出して繊維状にします。口金の繊維の出口の形状は真円だけでなく、本当に様々な形のものが各社から開発されています。この形状を複雑な形にすることで、例えば表面積を増やして吸水性を高めるなどの工夫がなされています。

さて、紡糸において重要なことがあります。ただ口金からでてきた状態では、非常に弱い樹脂のかたまりになってしまいます。口金から出てきたのち、引っ張ることで強くなります。理由は高分子鎖が一定方向に配列し結晶化度が高まるからです。これを配向といいます。納豆で試してみてください。納豆の糸は静止すると重力ですぐに切れてしまいます。しかし、ある程度の速度で引っ張ると細く強い糸になります。納豆の糸がいやな方はゆっくり動かして食べると食べやすいですよ。

化学繊維では主に以下の3つの方法で紡糸します。

溶融紡糸

原料の高分子化合物を熱で溶かした状態で、口金から押し出して繊維状にした後、冷却固化し延伸配向させて巻き取る方法です。ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどがあります。

乾式紡糸

原料の高分子化合物を熱で気化する溶媒に溶かし、口金から加熱した槽に押し出して溶媒を蒸発させ、延伸配向させて巻き取る方法です。アクリル、アセテートなどがあります。

湿式紡糸

原料の高分子化合物を溶媒に溶かし、凝固液中に口金から押し出して拡散した繊維が固化した後、延伸配向させて巻き取る方法です。アクリル、レーヨン、キュプラなどがあります。

また、絹は天然繊維で唯一のフィラメント糸です。詳細はこちらをご覧ください。