自動車シートの表皮材

自動車シートの表皮材は大きく3種類。布、合皮、本革が採用されています。

メリット、デメリット

合皮や本革は耐久性に優れていますが、夏は吸湿性がなく衣服に汗がべったりとついてしまいます。冬は熱伝導率が高く、座った瞬間にかなりの冷たさを感じるでしょう。布は汗を吸収し、後に放出します。繊維や糸の間には空気が含まれ、熱伝導率が低くなり、冬場に冷たさを感じません。どちらかといえば、布製のほうが快適であること言えます。これは人体に最も近い存在である衣服に合皮や本革が使われていないことから、明確です。

自動車シート表皮材の歴史

1900年代前半、車が発明され、広まっていった時期ですが、ほとんどの車がシートに本革を使っていました。当時の車は屋根がないものもあり、布は耐候性がないため、当然の流れです。しかし一部の高級車には、耐久性よりも快適性を重視した布が用いられていました。屋根付きの車の後席に使われ、お偉いさんが乗る部分に使われていたようです。いまでは考えられませんが、この時期は、本革よりも布のほうが自動車において上級とされていたんです。

1950年代以降、日本でも自動車が作られるようになりました。このとき日本車の多くは合皮(塩化ビニール)を採用していました。理由は最も安く作れるからです。布も一部で採用されており、ウールが主流でした。ちなみにウールは現在はほぼ見かけません。トヨタ センチュリーのような特別な車両にのみ使われています。

1960年代以降になると、海外でナイロンやポリエステルなどの化学繊維が開発されます。この化学繊維があっという間に普及することとなります。現在の布製の自動車シートの99%はポリエステル製となっています。理由は明白で、強くて安いからです。ナイロンも同等の性能がありますが、ポリエステルに比べ日光で黄変したりと、耐候性に劣るため、採用されていません。

1970年代から現在まで、織物、編物、不織布のそれぞれの形態で様々な発展を遂げていき、普及して行きます。その一方で本革シートは、ステイタス性を高めて上級車に用いられ、合皮は技術革新により、本革の見た目や耐久性に近づき、安価だが、ステータス性を高める用途で用いられています。生地に関しては、実は最近の方がペラペラです。昔の方が地厚で目付が高いのです。生地が薄くても難燃性や耐久性を高めたりする技術が用いられ、かなり安く作られています。生地の平米単価は1980から90年代は2、3000円程度の生地を用いていましたが、現在は1000円以下で作られています。為替や通貨価値の違いもありますが、それでも現在の生地は自動車メーカーに安く買い叩かれている印象です。

自動車シート表皮材の現在

現在の表皮材は生地であれば前述の理由で99%ポリエステル素材を用いています。そのほかにも合皮、本革が採用されています。現在はグレードを区別するように、用いられており、

  • 低グレード:布
  • 中グレード:合皮
  • 高グレード:本革

というイメージが定着してきています。さて、このようにグレード別に生地を採用しているのですが、実はこの生地の使い分けの中でも、さらに細かい領域でコスト削減のための涙ぐましい努力が行われているのをご存知でしょうか?自動車の表皮材は部位別にいくつかのパーツを縫い合わせています。

  • 背もたれ、座面部:メイン材
  • サイドサポート部:サイド材
  • サイドサポートより外側:カマチ材

実はこれらの部位別に異なる素材を綿密に使い分けているのです。一見本革のシートに見えても、メイン材が本革、サイド材、カマチ材が合皮、カマチ材のうちで、隠れて見えない部分を布、といった具合に使い分けています。合皮のレベルが向上し、本革と一見しただけでは見分けがつかないレベルになっているので消費者はほとんど気づかないでしょう。これはコスト削減が大好きで、緻密な設計ができる日本車で行われていることで、海外の高級車などはふんだんに本革を用いている傾向にあります。

余談ですが、自動車シートの可動部(リクライニング、アームレストなど)においては、本革同士がスレた時にブリブリ音がします。こういった異音を解消するために、可動部の擦れる部分を布にしなければならないケースもあります。

また、現在の表皮材は裏にウレタンシート(1〜10mm厚程度)をラミネートし、さらに自動車シートのパッドとの摩擦を低減するため、目付の小さい生地(裏基布と呼ばれる)をつけています。つまり表皮材+ウレタンシート+裏基布をがセットとなって縫製されます。このウレタンシート、裏基布も奥が深いので機会があれば後述したいと思います。

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