織物が出来上がるまでにはたくさんの工程があります。新規に織物を設計した場合、原糸を購入してから仕上げまでおよそ半月から1ヶ月程度かかります。なぜこれほどまでに時間がかかるのか、見ていきましょう。
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タテ糸の準備=整経
織物を作るためイメージできるのが、ヨコ糸を挿入し筬(おさ)で打ち込んでヨコ糸を手前に寄せて整える動作を思い浮かべると思います。しかしその前に重要な工程が必要です。それはタテ糸をま準備することです。タテ糸を準備するだけなのですが侮ってはいけません。織物の品質や性能、製織性に非常に大きな影響を及ぼします。
タテ糸をあらかじめ大きなドラム状の筒に巻き取っておくことを「整経(せいけい)」と言います。最終的には作りたい生地の幅分タテ糸の本数を巻く必要があります。どれだけの長さを巻くかというと織りたい生地の長さプラス10から20m余分に用意します。ロスが発生するためです。織物の仕様にもよりますが、数千本から数万本タテ糸を並べることとなります。一度に数万本の糸を巻き取るということはボビンを数万個用意するということになります。不可能ではないですが、コストがかさみ場所もとるため現実的ではありません。そこで写真のように数百本単位でドラムに巻き、必要な長さ巻き終わったら隣、巻き終わったら隣という形で横ずらしていき必要幅を巻きます。これを部分整経と言います。その他にも荒巻整経と呼ばれる手法がありますこちらは一回の本数が部分整経より多く数千本単位で行うものです。本数が少なければタテ糸をボビンからダイレクトに供給することも現実には可能です。ボビンはクリールと呼ばれる設備にセットします。
タテ糸本数が多ければ沢山のクリールを用意しなければならないため通常の織物では現実的でないでしょう。幅が狭い手織りであれば可能です。
タテ糸を巻く際に色を規則的に並べておけば柄になります。ストライプやチェック柄にしたい場合は整経時に希望の柄になるよう配列を組んで巻いておく必要があります。
引き込み
この工程ではタテ糸を上下させる綜絖(そうこう)、タテ糸が切れたときに織機を自動停止させるドロッパーに一本一本通します。そしてヨコ糸を打ち込むための筬(おさ)にも通します。筬は非常に細かいクシ状のものですが、細かくするには限度があり、一つの隙間に複数本入れるケースが多いです。するとクシの部分は筬打ちした際に隙間となりやすくなります。これを筬目と言ったりします。筬目と組織のパターンがあっているかどうかが織物の仕上がりに影響します。設計者は筬の選択と筬への糸の割付けまで考慮する必要があると言えます。この作業は手作業で行ったり、大きな企業は機械で行なっているところもあります。
この作業が最も地道で大変な作業と言えますが、省略できる場合があります。それは前回とタテ糸の仕様が同じ場合です。この場合、前回織り終わったままのタテ糸と一本一本結んでしまえば、綜絖、ドロッパー、筬に通し直す必要がないのです。
織り
織機に織り速度、密度、組織、ヨコ糸の打ち込み順序のデータを送り織始めます。データの形は様々です。古いものはパンチカードに穴をあけて0、1信号に置き換えるものや、フロッピーディスクに特定の形式のデータを書き込んで送るもの、織機に付属したコンピュータに直接入力するものなど様々です。
初めての仕様の織物を作るときには必ず設計者が立ち会います。理由は設計通りにいかないことが多々あるからです。例えばヨコ糸が設計当初の本数打ち込めず、筬打ちしたときに生地が衝撃で波打ってしまうなどが起こり得ます。また、組織のバランスが悪いと、タテ糸がゆるくなってきて糸が切れていないのに頻繁にドロッパが働いてしまうことがあります。新たに作る織物はトラブルがつきものなので、現場でよく観察して、知見を増やし、改良を加えながら良い製品にしていく必要があります。